前身であるNTTインベストメント・パートナーズ株式会社を設立した2008年以降、継続的にファンドを組成してきた株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ。運用金額は累計で1050億円に達し、国内最大級のCVCとして存在感を示している。今日までNTTグループ(以下、NTT)は、培ってきた技術力と社会実装力で、世界の景色を変えてきた。新たなイノベーションを生み出すべく、固定概念に捉われない発想力と技術、圧倒的なスピードで事業開発を進めるスタートアップとの連携を加速させている。運用額やこれまで出資してきた会社の顔ぶれにはダイナミックさを覚えるが、そこには緻密に構築した組織体制と戦術、そして実行力があった——
NTTドコモ・ベンチャーズの素顔についてManagerの二人にインタビューをした。
写真左から
・今井康貴さん
NTTドコモ(以下、ドコモ)に新卒入社後、PRプランナーとしてコーポレートコミュニケーションの分野に従事。経営戦略・出資協業・新規事業・先進技術などの対外発信戦略の立案と実行を担う。2016年からモバイル関連の国際展示会MWC Barcelonaのプロジェクトを手掛け、5G/6GのユースケースやOpen RAN事業などの海外発信を主導。2023年7月にNTTドコモ・ベンチャーズに参画。現在はスタートアップとの協創・投資およびPRを担当。
・十川良昭さん
2005年にドコモ新卒入社後、ドコモの屋台骨であるモバイルNWインフラ業務に従事し、全国のエリア整備から年間数千億というNW設備投資の元となるトラヒックモデルを策定。その後、スマートフォン黎明期にネットサービスの世界を志し、楽天への出向も経験。一貫してWeb、アプリのサービス企画運営に従事し、様々な形態(サブスク、個別課金、B2C、C2C等)やジャンル(情報配信、エージェントサービス、オークション、ショッピング、ファッション、トラベル等)のサービスを担当し、社内外でECビジネスの講師も務める。現在はこれら経験を生かしてスタートアップとNTTグループでのイノベーション創出にコミット中。
設立からの歴史を振り返る
NTTドコモ・ベンチャーズの歴史ついて教えてください。
十川:NTTドコモ・ベンチャーズは、ドコモの100%子会社ですが、NTTグループとドコモ2社のCVCファンドの位置づけとなっており、NTTグループ全体のCVCとして運営しています。元々はNTTインベストメント・パートナーズというNTTグループのCVCファンドが始まりでしたが、2013年にはドコモが子会社としてNTTドコモ・ベンチャーズを立ち上げ、同年にNTTインベストメント・パートナーズを吸収合併する形となりました。グループとしてCVC活動を辿ると、2008年に設立されたので、2024年現在で16年間CVCを運営していることとなります。
NTTドコモ・ベンチャーズの投資方針について教えてください。
十川:大前提としてドコモ・ベンチャーズはNTTグループとスタートアップとの事業連携を前提として出資を行います。例えばドコモには携帯電話の通信インフラがあり、膨大な顧客データや行動データ、さらには、ドコモの独自ポイントである「dポイント」があります。そこで、このようなアセットを活用してマーケティング連携できるスタートアップを探していたり、IP創出やスタジアム運営なども視野に入れたエンターテイメント領域のスタートアップも探しています。また、C向けを中心に、金融・決済、あんしん・安全、といった分野にも注力しています。
今井:一方でNTTグループは研究所を有していることもあり、研究開発の分野でも連携できるスタートアップを探索することがあります。例えば、AI 、エネルギー、宇宙領域などが投資領域として挙げられます。このようなスタートアップは成長に時間がかかるため、出資後、長い時間をかけて事業連携を模索していく場合もあります。
スタートアップの出会い方について
スタートアップのソーシングに関して、NTTドコモ・ベンチャーズではどのようにして機会を獲得しているのでしょうか。
今井:VCから投資先スタートアップを紹介してもらう方法や、スタートアップイベントやカンファレンスに出向いて、起業家と情報交換するなど地道な活動も続けています。
また、注力している分野に関しては、メンバーでリサーチを実施し、スタートアップへのダイレクトアプローチも行っております。
NTTドコモ・ベンチャーズ独自のイベントが非常に人気で盛り上がっていると伺っています。イベントについて教えてください。
十川:多様なステークホルダーとの共創をサポートする「DOCOMO Ventures Pitch」を独自に開催しています。コロナが明けてからは社内ラウンジで現地開催し、それをオンライン配信するというハイブリッドのスタイルをとっていて、現地とオンライン合わせて毎回300名以上の方にお申込み頂いています。出資を受けたいスタートアップ、ソーシングをしたい投資家や事業会社、さらにNTTグループからはスタートアップ連携に関心のある社員が自主的に参加しています。我々としてはNTTグループとのスタートアップ連携を加速する狙いがもちろんありますが、様々なステークホルダーが交流する場を提供しスタートアップコミュニティの活性化に少しでも寄与できたら良いなと思っています。
海外投資も国内同様に積極的と伺っています。
十川:はい。実は投資件数でいうと半分弱が海外スタートアップへの投資になっています。しかし、当たり前ですが国内同様にソーシングや投資検討できるわけではありません。海外では当社が国内ほど認知されているわけではないからです。そのため、有望なスタートアップに出会っても円滑に投資できるわけではありません。
どのような対応をしているのでしょうか。
十川:海外スタートアップには、例えば日本に進出するうえでNTTグループは強力なパートナーであることを打ち出したりしています。具体的には「通信インフラと膨大なデータ基盤を持っていて、さらには数多くの顧客を有している」などとアピールし、日本国内でサービスを販売していくためのパートナーとしての側面を強調しています。
海外の投資は対象地域が広いと思いますが、メンバーや役割分担について教えてください。
今井:海外については米国シリコンバレーに拠点を構えて投資活動を行っています。そこには日本からの赴任メンバーに加えて現地のキャピタリストも雇用しています。
役割に関しては、北米と欧州はシリコンバレーオフィスの管轄で、日本チームは国内に加えてイスラエルや東南アジアのスタートアップを見ています。イスラエルや東南アジアには拠点を構えていないため、現地のVCの力も借りながら情報を集めています。
produced by Sourcing Brothers | text and edited by Jinya Nakamura | photographs by Yuji Shimazaki