スマートセキュリティおよびスマートタウン事業の株式会社Secual(以下、Secual)と、「暮らし」と「住まい」に関わる幅広い領域において、お客様とダイレクトにつながりをもつ株式会社ナック(以下、ナック)は、10月30日(月)に資本提携を行いました。今回の資本提携の経緯や、両社が目指して行く方向性を、Secual社代表の菊池正和さん、そしてナック社 アライアンス推進室 室長の安藤二郎さんにお話しを伺いました。
事業概要について
まずは事業内容を教えて下さい。
安藤:株式会社ナックは、東京都町田にて、ダスキンの加盟店として1971年に事業を開始しました。そこから、現在53年目に入っており、祖業のダスキンを含むレンタル事業を筆頭に、ウォーターサーバーのクリクラ事業、建築コンサルティング事業、住宅事業、美容健康事業の5つの事業セグメントで事業を展開しております。
基本的には一般消費者の「暮らし」と「生活」に密着したサービスを展開しており、今後も特定のジャンルに捉われずに、ビジネスを展開していきたいと考えております。
菊池:株式会社Secualは、2015年設立のスタートアップです。スマートホームセキュリティ事業を展開しており、大手警備会社が富裕層向けに展開してきたサービスを全ての人へ届けることをミッションに掲げております。安価で、誰でも簡単に設定ができて、スマホ一つで完結できるサービスを提供することで、世の中の住宅には当たり前にセキュリティが付いている世界を目指しています。
上場企業が自社としては未知のセキュリティ領域スタートアップと連携したワケ
ファーストコンタクトから教えて下さい。それぞれどんな思いで面談をしたのでしょうか?
安藤:ファーストコンタクトについては、ソーシング・ブラザーズさんからの紹介でした。元々は財務部が窓口となりM&Aや、スタートアップとの資本提携を推進してきましたが、もう少し幅広く、すなわち財務的な観点だけではなく、事業的な観点を考慮しながら、M&Aや資本提携を推進していこうということで2年ほど前にアライアンス推進室を創設しました。そんな中でソーシング・ブラザーズさんから紹介してもらったスタートアップの1社がSecualさんでした。
お客様の生活というのもずっと同じではなくお客様の年齢層、スタイル、技術の進歩に応じて、変化しております。そうした中で近年、色々なところでお話を伺うのが高齢化に伴う介護・防犯・見守り、そういった領域です。弊社お客様に、その領域に差し迫ったニーズがあるかというとそうではないです。ただちらほらと、懸念・不安をお客様からお伺いするケースが出てきております。しかしナックとして未だこれらの領域に対してサービス展開していない状態です。 これら、介護・防犯・見守りの領域に何かサービス展開ができないかと朧気に考えていた際にSecualさんの紹介を受けて、一歩踏み込んで話を聞いてみたいと感じました。
菊池:我々はスタートアップとして創業以来、資本業務提携を積極的に行っております。しかし我々のようなビジネスモデルは、どうしても収益化までに時間を要してしまいますので、VCが求めるEXITの時間軸と合致しないです。ここは創業以来のジレンマでございます。そこで重要視しておるのが、事業面でシナジーが見込める事業会社との連携です。
では自分たちにとって、どういった事業会社が最もシナジーがあるのかと考えると、
1. 一般消費者(toC)への顧客基盤を保有している
2. できるだけ家と距離が近い事業を展開している
この2つが重要ではないかと考えております。
まさにナックさんはこれらの条件にマッチしますし、恐らくナックさんとしても、新規事業を検討する上で、セキュリティ領域には関心があるのではないかと感じ、お話を進めさせていただきました。
業務提携を経て得た学び
今回はまず業務提携から開始をし、相互理解を深めていったとお伺いしております。どのような業務提携を実施したのでしょうか?
安藤:今回実施した業務提携を簡単に表すと、「試しにSecualさんのプロダクト販売させて下さい」ということです。弊社でSecualさんの商品を仕入れて、レクチャーを頂き、我々の営業部隊が今お付き合いのあるお客様向けにご案内をして回るというアクションをまずはやってみましょうというところですね。資本提携など考える前に一旦トライアルをさせていただいたというのが、業務提携という形をとっている感じです。
そういった業務提携を経て、資本提携まで至った背景を教えて下さい。
安藤:トライアルとして商品販売させていただいて、「そう簡単に売れるものでもないな」、ということが分かりました。我々には、お客様とのこれまで構築してきた関係性があるので、「売る」こと自体はできるだろうという目論見はありました。しかし、やったことないジャンルなので、色々と試行錯誤はしています。
資本提携に進んだ背景でいうと、この先、どういう形でお客様のニーズが顕在化してくるのか、完全に予測することはできません。お客様にご案内している「いま」の商品・サービスでカバーできるのか、「いま」の商品・サービスではカバーできないニーズが出てくるかもしれない。このように将来のことは誰にも分からない。分からないけどもし、そこを我々が上手く汲み取る企業努力をして、他社よりも先にお客様のニーズに訴求することができるのであれば、他社に先んじて、お客様にサービス提供できるのではないかと。その為には自社のみではなく外部との積極的な連携をしていくことが有効な手段ではないかと考えております。我々には開発力は無いので、開発して頂けるパートナーと一緒にやっていかないと難しいだろうといった思惑の中で、一歩進めていこうというのが、今回資本業務提携になっていきました。
菊池:安藤さんからお話しいただいたように、100%そのトライアルが上手くいったかと振り返ると、必ずしもそうではないです。業務提携の期間を経て、「顧客との接点があれば売れる」という甘い考えではダメだという事を学ばせていただいた、非常に良い経験になりました。顧客ニーズにフィットさせるためには、どういうサービス設計であるべきなのか、より売りやすくする為にはどうしたら良いのかという事を、改めて考える良いきっかけになりました。 顧客ニーズにフィットするサービスへいかに進化させていくかという部分と、その先の我々がやっているような「まちづくり」にナックさんとご一緒した時に何が出来るのだろうか、そういったところも、次のステップとして考えていかなければいけないと考えています。資本を入れていただいた以上、短期的だけでなく中長期的にもお互いにご一緒できる要素を増やしていかなければいけないと考えさせられた期間でもありました。
ナック社がセキュリティ領域へ関心をもった背景
創業以来、様々な新商品・サービス開発に取り組まれてきたナックさんが、今回セキュリティ領域へ関心をお持ちになられたのはなぜですか?
安藤:一番大きな理由は、「お客様の高齢化」です。大変有難いことに、長いお客様だと20年、30年お付き合いいただいています。すると当然お客様も20年、30年、年を重ねておられます。
そういうお客様自体が少しずつ高齢化してきている、もしくは、高齢のご両親との今後を案じている世代が弊社のクライアント層です。このようなお客様に対して、どういうアプローチをしていけばご満足いただけるサービスが提供できるのか。
弊社サービスはお客様の生活と密接にかかわるサービス展開をしておりますが、我々が現在すぐに提供できないのは、「機械的に見守る」・「防犯対策をする」・「有事の際すぐに連絡が取れるようにする」ことです。
ここを補いたいと考えた時に、この分野に特化し事業展開されている会社さんとの連携が望ましいだろうと考えてはおりました。実は過去に最大手の2社さんから「販売協力して欲しい」といったお話も頂戴しましたが、我々のお客様層とはマッチしにくいように感じていましたし、その時点では、弊社としても、セキュリティについて具体的に考えるきっかけ自体も少なかったです。
今回、具体的にSecualさんを紹介頂き、プロダクトを頂いたことで改めて、「セキュリティ」領域をどうするか考えるきっかけになりました。
Secual社からみたナック社の魅力とは
Secualさんは創業以来、積極的な資金調達を実施し、株主に事業会社が数多くいらっしゃいます。そのような中で今回ナックさんとの連携を希望された理由や、ナックさんの魅力はなんでしょうか?
菊池:ナック代表の吉村社長もおっしゃっていますが、ナックさんは「売ること」に長けている「売れる」集団であるということが圧倒的な魅力です。これは、我々に限らず多くのスタートアップが抱える課題だと思いますが、良いサービスや商品を作る自信はあるものの、売ることや、アライアンスを作ることが苦手、との課題があります。私自身も営業経験者ではないので、「売る」ということには苦労しました。やはり、「売る」ことは最終的に会社を支えるものになってくるので、ナックさんの魅力を語る上で「売れる」集団であることは欠かせないと思います。
資本関係があるからこそ、手を取り合い、コミットする
資本関係だからこそ、協力し合えることも多くなるかと思います。今後どのような連携を検討されていますか?
安藤:「高齢世帯向け」「防犯セキュリティ」この二つの軸でサービスラインナップを作っていきたいと思っています。どういうサービスが喜んでいただけるのかについて知見を出し合い、一緒にビジネスを展開していけたら良いなと考えています。
目の前の売上も勿論大切なので、「売れるものを一緒に作りましょう」というのは当然あります。しかしそこに留まらず、新しくサービスを一緒に提供して行けるようになれば良いなと思っています。現時点では、こちらのウェイトが高いです。
まだ具体的にこれやりましょうといった話までは進んでいないので、案を出していくフェーズではありますが、Secualさんとであれば、お客様に喜んでいただけるサービス開発ができるのではないかと感じています。
菊池:「防犯」「見守り」「防災」という3つの軸を広義な意味でセキュリティ事業と捉えているので、この領域で我々ができることをナックさんと手を組んでやっていきたいと思っています。
我々のセキュリティサービスを普及させていく世界観に加え、超高齢化社会に向けた取り組みは必要不可欠であると感じています。ナックさんはクリクラのフランチャイザーでもあって、家の中にモノを置けるという最高のシチュエーションを持っているので、そこをそのまま活かせないだろうかというのは僕ら観点ではすごくあります。
例えば、ウォーターサーバーがスマート化していった世界って何かないかなとか考えたりもしています。ウォーターサーバーが高齢者を見守ってくれても良いですし、子供の帰宅を検知してくれても良いですし、そういった世界は非常にあり得るだろうなと。
弊社のIoTに関するナレッジをナックさんにご提供し、テクノロジー面で協力させていただくというのも、我々も考えていきたいなと思っており、少しずつ案を出しているところです。 ナックさんとの連携通じて、実現していきたい「いえなかサービス」は本当に沢山あるんです。
オープンイノベーションを成功へ導く
お二方のお話を伺うと、事業会社とスタートアップとの連携において資本提携は有効な一つの手段だと感じました。最後に今回の連携で、資本提携という形を選択した理由を教えて下さい。
菊池:幾つか理由はあると思いますが、私も色々な事業会社さんと資本提携をしている中で一番感じているのは会社としての意思表明かと思っています。契りを交わして、「この事業会社と本気で連携を目指す」、この意思を資本という形で表明することで、自社の現場で働くメンバーへの意思表示としても一番望ましい形ではないかと考えています。現場メンバーも資本関係があることで、よりコミットして事業連携を目指せるのだと思います。
安藤:幾つかのスタートアップへ出資もしておりますが、その一番の目的としては弊社の本気度をスタートアップへお示しするためです。「販売する自信あります」と言いますが、本当に販売できるのかについては、やはりやってみないと分かりません。優れた商品だから、イコール必ず売れるとも限らない。そういう意味で、一定の実証実験の時間や試行錯誤の時間を確保し、共にプロダクトやサービスのブラッシュアップをしていく必要があります。そういった実証実験のフェーズを、通常の商取引関係のみで、本当にお互いが本気でコミットして取り組めるのかについて考える必要があるかと感じております。お互いがコミットし合い、そして共に成長していくために、出資は一つの有効な手段であるのではないでしょうか。