【Vol.1 前半】国内最大級ビジネスチャットを持つ株式会社kubellが運営するkubell BPaaSファンドが目指すオープンイノベーションを深堀
2024年7月1日、Chatwork株式会社から社名変更した株式会社kubell。「Chatwork」でビジネスチャットの利用文化を築き、培ってきた顧客基盤とナレッジを活用し企業が抱える煩雑な業務プロセスをDXで解決し生産性向上を目指しています。このような解決を行う「BPaaS」はまだ日本では馴染みがなく、今回はその活動にフォーカスします。
(写真=株式会社kubell kubell BPaaSファンド パートナー 森雅和)
事業概要について
kubellについて教えてください。
日本の事業者数のうち99.7%、働き手の7割(※)を占める日本の中小企業は、日本経済・社会を支えるマジョリティです。中小企業は労働生産性が長期で向上しておらず、理由としてはIT投資(DX)をできていないことがあげられます。
※参照:『令和3年経済センサス-活動調査』(総務省統計局、https://www.stat.go.jp/data/e-census/2021/index.html)
今後、深刻な労働人口の不足が予想される中、DXを通じた中小企業の労働生産性向上の実現は非常に重要だと私たちは考えています。しかしDXを推進する多数のSaaSプロダクトを使いこなすことは、ほとんどの企業にとって非常に難しく、なかなか普及しないのが現状です。当社はそのような企業のSaaS導入から業務代行まで一括して対応できるような会社になろうと考えています。
その中で多様なニーズに対応できるよう、自社で内製することをはじめ、外部、特にはスタートアップ企業と共創していきサービスの多様化を進めております。私(森 雅和)はこのような共創を生み出すCVCのパートナーをしております。
BPaaSファンドの戦略とは
BPaaSファンドについて教えてください。
BPaaSは「Business Process as a Service」の略称から由来した名称になります。会社紹介のように中小企業のDXを推進できるスタートアップを探し、資本提携や販売提携を行っています。またkubellでは将来的に「Chatwork」を軸にビジネス版スーパーアプリを創っていきたいと考えています。しかし中小企業にはソフトウェアを使うことに不慣れな方が多いので、バックオフィス業務である会計管理、経費精算、勤怠管理などを巻き取って一気通貫で支援するところまで展開しようと考えています。そして中小企業にはコアビジネスに集中してもらおうと考えています。
いままでのCVC運営と異なりますか。
前職の人材会社にてCVC運営や、他社CVCの研究なども経験して、kubellはCVC成功のための条件がそろっているととらえています。当社は広く中小企業に対してDXや生産性向上のためのご支援をしたいと考えていますが、「Chatwork」やBPaaSの提供だけでは十分ではありません。もちろん新しいサービスもどんどん立ち上げているものの、顧客が持つ課題は無限に広がっているので全てを自社で抱えることは現実的ではありません。スタートアップとの連携により当社は新たなソリューションを得ることができます。当社には圧倒的な顧客基盤と顧客解像度があります。「これなら売れる。顧客に価値を提供できる」と思うサービスを先行して開発されているスタートアップと組むことができれば両社にとって大きなメリットがあります。
他事業部との関わり合いはどのように行っているのでしょうか。
kubell BPaaSファンド運営ではひとりで行っていますが当社の各部署の担当役員と週に一回、1on1を行っています。事業部に合うスタートアップを報告をして、協業できる案を考え、いいアイデアが浮かび良さそうであればそのスタートアップと当社の担当役員やビジネスサイドのメンバーを交えた面談を行います。
各事業部のTOPはスタートアップに詳しいのでしょうか。
詳しいのでコミュニケーションをとりやすいです。それによりCVCを私一人で運営できています。
現在連携をとっている会社は4,50社に上ります。これらはCVC起点で私のみが探しているのではなく、当然各事業部も日々探索しています。私の守備範囲では資金調達ニーズのあるSUに限ります。基本的に事業のアライアンスは各事業部がやってくれています。
kubellの未来を見る
BPaaSとはどのような仕組みなのでしょうか。
大企業へのBPOサービスはコンサルティングファームがよく行っていると思います。一社に複数人を派遣して手を動かしてやっていくといったように。ただ規模を考えると中小企業には通用しないと考えます。したがって一人が複数社を見ていく、そしてオンラインで業務を完遂させる。多数の中小企業を1つのグループと捉え、その本社機能を当社で運営するイメージです。
中小企業だけがターゲットなのでしょうか。
最近は大企業で海外のチャットアプリが流行しつつありますが、普段利用しない機能が多いなど、使い方がマッチしないケースもあるかと思います。一方で「Chatwork」は非常にシンプルで海外チャットアプリから乗り換えるケースもあり、乗り換えの際には大企業のBPOまで対応できるようにしていきたいと考えています。また、EUではMicrosoft社のOfficeサービスとTeamsのセット売りが規制されつつあり、国内でも同様な動きになっていくものと思います。このような規制のタイミングを当社がしっかりと捉えられるように動いていきたいと考えています。
更なる戦略はあるのでしょうか。
「Chatwork」はお使いいただいている顧客とも接続していて、顧客とのコミュニケーションもチャットで行っています。今後はAIなどのテクノロジーも活用し、取引先とのコミュニケーションを丁寧にできるようになると考えます。例えば「経費申請をしていない人が〜人います」や「勤怠が正確に打刻されていません」などこちら側から通知を送れるとご使用いただいている会社の負担はさらに軽減されると考えています。
出資を求めているスタートアップへ一言
「スタートアップへの投資」と考えるとき、「キラキラ輝いている最新の○○」のようなイメージを持たれる方が多いかと思いますが、当社はビジネスの地道さや既存事業の親和性を投資検討において重視しています。大きな社会実装を目指すAIソリューションよりも純粋なBPO事業の会社や、業務効率化を地道に実現しようとしている会社などへの出資に積極的です。また人材派遣の会社にも投資をします。これはテクノロジーの要素が強いと中小企業は苦手意識を持ちやすいからです。
これからオープンイノベーションを起こすのは
オープンイノベーションが叫ばれ続けている現代ですが、私は中小企業の方々がオープンイノベーションを起こすべきだと考えています。
確かに、中小企業は規模が小さいというだけでサービスがすでに立ち上がっており、あとはマンパワーの問題な気がします。イノベーションを起こす可能性は高いですよね。
中小企業の生産性向上、効率化をとにかく進めていきたいと考えます。繰り返しになりますが国内の経済を支えているのは9割以上が中小企業です。彼らの生産性が上がると利益率も上がり、社会全体が良くなるはずです。
失われた30年を取り戻すーこれは中小企業をはじめとする多くの企業がイノベーションを起こせる状態にすることが大切なのかもしれない。
produced by Sourcing Brothers | text and edited by Jinya Nakamura | photographs by Yuji Shimazaki