オープンマインドが生み出した、事業会社とスタートアップとの連携とは。
中長期経営計画の指針の1つとして『「共創」を軸に新規事業の進化とコア事業の深化を加速』を掲げているバンドー化学株式会社(以下、バンドー化学)は、AIを活用した農業自動収穫ロボットを中心に生産者向けサービスを提供するinaho株式会社(以下、inaho)へ出資を行いました。
今回の資本提携の経緯や、両社が目指して行く方向性をバンドー化学 新事業推進センター イノベーション推進室 室長の及川さん、そしてinaho代表の菱木さんにお話しを伺いました。
事業概要について
まずは事業内容を教えて下さい
菱木:inahoの事業概要としましては、野菜の収穫ロボットのサービスを筆頭に、人をサポートするロボット関係が主軸です。それに付随して、例えばロボットを用いて新しく農業参入したい企業のサポートや、色々な国の研究機関と一緒に国のプロジェクト行っておりますので、その中で出てきた新しいノウハウを活用して、マーケットに提供しております。
元々私自身がAIに関する勉強をしていたことが1番直接的な起業の背景になっています。10年ぐらい前に、AI・ディープランニングとかが出てきたタイミングで、この技術は世の中を変えていくなと感じました。ではどのような領域で使えると世の中の役に立つのかとの観点で考えた時に、色々探索していく中で、「農業」に注目しました。 農業は人手でしかできない作業がまだまだメインのところであり、かつ農家さんがどんどん減っていく中で、 そういった生産量の問題、食料がちゃんと行き渡らなくなるような可能性をこのAIを使ったテクノロジーで何かできないかと考え、AI×ロボットってところで新しいことができるのではないかなということがきっかけですかね。
及川:バンドー化学は1906年創業になりますので、創業117年の企業です。主にエラストマーといわれるような材料や樹脂へ付加価値を与えて提供しております。バンドー化学と名前には付いておりますが、材料メーカーではないので、分散技術という技術を用いて、いろんな材料を組み合わせて、配合設計をして加工することが得意分野です。
現状はベルト関係のビジネスが多いですが、新規事業としては、分散技術をベースに医療機器とかヘルスケアの方にも今進出していたりしています。加えて電子資材と言われるような、半導体に使われるような部材も、分散技術をベースに色々新しい取り組みもしています。
初回面談から感じたシナジーとは
ファーストコンタクトについて教えて下さい。
菱木:ファーストコンタクトはソーシング・ブラザーズ(※)さんからのお問い合わせだったと認識しています。まず、WEB面談でソーシング・ブラザーズさんの会社紹介を貰ってから、その後NDAを締結し、バンドー化学さんの会社概要や、提供可能なアセットについて共有をしてもらいました。
バンドー化学さんの紹介を貰って、「是非会いたいです」とソーシング・ブラザーズさんへ依頼してバンドー化学さんとのファーストコンタクトが実現しました。
一昨年くらいから、ミニトマトを一つ一つ収穫する方法では事業としてブレイクスルーする将来性が見えず課題感を抱えていました。打開策として、ベルトコンベアのような形のものをハンド部分に2つ搭載して、それを駆使し挟んで、トマトをもぎ取る取る方法を考え、特許も申請していました。こういったタイミングでバンドーさんの紹介をもらい、お繋ぎをいただいた流れです。
弊社はロボットを作っている会社で、自分たちの得意なところって、ソフトウェアとハードウェア両方に知見があり、一気通貫でできるところだったりするのですが、 ベルトコンベアの専門家ではもちろんないので、当然そこに精通しているメンバーも社内におらず、しかしロボットのハンド部分にゴムは欠かせない要素なので、どうしようかと試行錯誤しておりました。
バンドー化学さんとまずはWEBにて面談させていただき、短時間ではありましたが、「こういう考え方があったのか!」と驚かされる部分が多く、バンドーさんと組めばロボットの性能が確実に向上する可能性を感じたのを覚えています。
及川:僕は営業企画系だったので、初対面のタイミングでは、inahoさんとのシナジーについて正直ピンと来てないとこもありました。しかし技術メンバーから、「inahoさんのこの課題をバンドー化学が解決しなくて、他に誰がやるんだ」、との意見が挙がったのを明確に覚えていますね。
※ソーシング・ブラザーズ:大企業のCVC支援を行う事業会社。バンドー化学とinahoの資本業務提携のサポートを行った。
バンドー化学が掲げる「三現主事」とは
inaho社のロボットが稼働している新潟農園でも打合せを行ったと伺っています。その際にどんなことを感じたのか教えて下さい。
菱木:新潟に実際にロボットを見に来ていただいて、その時にバンドー化学さんの技術の責任者からアドバイスを貰い、「やっぱり、こういうことがもっとできるのか!」、と気づきを与えてもらいましたね。その道の専門家が見るからこそ分かることがあるのだと。弊社のエンジニアが、「なるほど!」みたいな感じになり、プロダクトのアップデートに向けて目を光らせている姿を見た時には、バンドー化学さんとの連携についての期待値が更に高まったのを覚えています。
弊社はスタートアップとして、まずはスピード感を持ってプロダクトをマーケットに展開していくことに注力しており、重要と認識はしているものの、細部(ベルト等)にリソースを割くことができない、という壁に当たっておりましたので、非常に価値ある交流でしたね。
及川:弊社は「三現主義」を社内用語として掲げております。現場、現物、現時点の3つです。机上で調査した情報のみですと、理解が深まらないとの考え方は私の根底にもあります。今回、実際に弊社の技術メンバーも交えて、現場で実機を拝見できたからこそ、相互理解が深まり、今回の連携に至ったと振り返って感じています。
実際にinahoさんのロボットが稼働している姿を拝見できたことで、inahoさんがスタートアップとして、限られた人的リソースを最大限に活用し、お客様に寄り添い、より良い製品開発へ奔走していることに、私としても非常に感動したのを覚えております。 新潟の農園への訪問をしたからこそ、社内で経営層にinahoさんへの出資を上程した際に、臨場感を持って提案できたのだと思いますね。
ゴムのパイオニアが農業(アグリテック)領域へ関心を抱いたは背景とは
一見、飛び地領域として感じられるアグリテック領域へ関心を持たれた経緯について教えていただけますでしょうか。
及川:弊社のコア技術が応用できる領域がどこにあるか考えた時に、「ロボット」ではないか、との意見が社内から漠然と挙がりました。ではロボットが参入していく領域はどこか、より因数分解していくと、キーワードとして、少子高齢化や介護があり、実際にコミュニケーションロボットを提供しているスタートアップとの交流をソーシング・ブラザーズさんの紹介でさせていただきました。しかし、彼らはソフト面でのアップデートに重きを置いており、そこに対してバンドー化学として貢献できる絵は描けませんでした。
弊社はお客様に大手農機メーカーさんがいらっしゃり、彼らがハード面で課題感を抱えているのはなんとなく把握しておりましたので、inahoさんと初めて会った日からなにか一緒にできると感じましたね。 なので、兼ねてより、アグリテック領域・農業領域に強み関心を寄せていたというよりは、実際にソーシング・ブラザーズさんとプロジェクトを推進する過程で、アグリテック領域へ関心を高めていったとの表現が正しいかと思います。
資本提携が双方の関係値をより強固なものへ導く
inahoさんとして、今回業務提携ではなく出資をしてもらえたことの意義を教えて下さい。
お互いにコミットメントを深める機会を頂けたと認識していますね。先日、バンドー化学さんの植野社長へご挨拶させていただきましたが、業務提携のみでは、あのような機会を設けていただくことは無かったのだろうと感じています。連携を深めていくためには、出資いただけた事業会社様側の役員の方々が気にして下さるか否かも重要かと考えています。
バンドーさんとは弊社ロボットの重要パーツであるハンド部分での連携を描いておりますので、「出資」という形でコミットメントをお示しいただけたことは、本当に光栄なことです。「親戚」のような関係値を築くきっかけを今回の出資を通じて与えていただきました。
新規事業をスタートアップと共創する
及川さん所属の「イノベーション推進室」設立以来、歩んできたプロセスについて教えて下さい。
2021年に立ち上がってから、本当に色々なことがありましたね。弊社は部品メーカーですので、材料メーカーさんと、自動車メーカーさんの間に挟まれています。ですので、自動車部品メーカーさんのオーダーに対しては、材料を仕入れて加工して新たな機能を見出して、高いスペックで応えることはできていると自負しています。しかし、ゼロから何かを創ることに関しては、苦手意識が社内にあったと感じています。
分からないからこそ、アクションを起こすことの重要性
「inaho×バンドー化学」のような連携を行いたいスタートアップ・事業会社へ、それぞれアドバイスをいただけますでしょうか。
菱木:不勉強ながら、ソーシング・ブラザーズさんにお繋いただくまで、私も弊社メンバーも誰もバンドー化学さんの事を認識していませんでした。
何を伝えたいかというと、私は今回バンドーさんとの出会いを通じて、行っている事業や自社技術を因数分解することの重要性を認識できました。「ロボット」や「農業」という大枠では因数分解はできており、そこに関連した事業会社さんとコンタクトを取ったことはありましたが、「ロボット」というキーワードをもっと深堀し因数分解しておれば、バンドーさんと早く出会う事ができたな、と少し反省しています。
今回ソーシング・ブラザーズさんを通じてバンドー化学さんとはご縁を頂けましたが、それが出来たのは、誰よりも自分自身がオープンなスタンスで、外部との連携を模索していたからだと思っています。そこに関しては自分を褒めたいですし、アドバイスできる部分かなと思いますね。
及川:inahoさんへの出資も弊社として初めてですし、まだこれからのフェーズではありますが、今回のinahoさんとの一連を振り返ってみると、「まずアクションを起こす」ことの重要性を感じました。
ソーシング・ブラザーズさんにお繋いただくまで、弊社としてもinahoさんの事は知らなかったですし、もちろんこのような連携に至るとは想像もしておりませんでした。しかしこれまでお伝えの通り、実際にコミュニケーションを取らせていただくことで、inahoさんへの理解度も高めることができ、このような資本提携に至ったと思います。
前向きなアクションを起こしている過程で、社内の理解含め難しさを感じる場面もありましたが、「例のinahoさんとの連携どうなったの?」と聞いてくれる社内のメンバーもだんだんと増えていき、今では応援してくれる声が多い状況になりました。inahoさんとの連携を経て、社内の雰囲気や考え方も、イノベーションを起こしていくことに前向きに変わっていくと信じています。私としては引き続き、前向きなアクションを取り続けていきたいと思っています。