
大東建託は、日本一の大家として賃貸住宅を提供し強固な事業基盤を土台に、常に革新と挑戦の精神を掲げ、業界内外でその存在感を示している。
これまで、固定概念にとらわれない発想と、緻密に構築された組織体制によって、クローズドイノベーションの領域においても着実な成果を積み上げてきた。過去5年間において、6回に及ぶ社内新規事業プログラムを実施し、これまで述べ1,300名以上の社員が「成功したい」「社長になりたい」という熱い思いを胸に、新たな価値の創造に挑戦している。その背景には単なる経営戦略を超えた、社員一人ひとりの挑戦意欲と、それを支える組織全体の実行力があった。
(写真=大東建託株式会社 事業戦略部 イノベーションリーダー 遠藤 勇紀)
学生時代の事業立ち上げ経験を経て、新卒でプライム上場企業の新規事業部門に参画。0-1の最前線からチームビルディングまで「社内新規事業立ち上げ」に特化したキャリアを歩む。
現職では社内ベンチャー制度を運営し、メンターとして伴走し社内起業家を支援。また、制度運営の傍ら自らも0-1に強いこだわりを持ち、自社アセットを活用した新規事業や出資も含めたオープンイノベーションによる新規事業の立ち上げに取り組む。
遠藤さんの今日までの取り組み
遠藤さんの大学時代からの取り組みを教えてください。
大学時代にエンジニアの友人とともに、あるデジタルサービスを開発しました。これが私にとって最初の事業開発の経験です。当時、書類のデジタル化が進む流れが加速しており、変化に着目しながら事業のタネを考える時間にとても楽しみを感じていました。
ほかにも実現したいサービスのイメージはいくつかありましたが、まずは自らの事業開発の力を高めるにつけることを優先し、大学4年次に人材系プライム上場企業に入社し、当時トレンドだったSaaSの事業に参画しました。そこでは、インサイドセールスのような営業のフロントに始まりサービス開発の上流、新規事業組織のチームビルディングなど、幅広く貴重な経験を積ませて頂きました。
前職もプライム(当時1部)上場企業であったものの、私が所属した部門は本当にスタートアップのような環境でした。当時メンバーはほぼ中途採用で、事業の成長のために選りすぐられたトップパフォーマーの仲間と事業に向き合う日々を過ごしました。こうした恵まれた環境の中で、結果的に2つのSaaS事業の立ち上げ時に関わらせて頂き、現在の基礎となる事業開発の実践経験を積むことができたと考えています。
大企業での新規事業においては基本的に、会社が潰れ会社員として給料がもらえなくなることはありません。その点ではスタートアップの皆さんと比較すると甘いと感じる方もいるかもしれませんが、事業が成長しなければ事業を畳むしかないという切迫した状況で事業を行う環境であったという点は共通する部分が多くあったと考えています。
私自身はスタートアップ側で事業を作りに挑むのではなく、あえて大企業新規事業というアセットを活かしたスタートアップにはできない事業立ち上げルートを学生時代から体感し、その最前線で事業開発を学ぶことができたのは非常に恵まれていたと、改めて強く感じています。
様々な機会で就活生とお話をさせて頂く際に、新規事業への挑戦をしたければ起業やスタートアップに行かなければならないと思っていらっしゃる方も多くいるように感じます。実は選択肢はそれだけではなく、大企業という選択肢は使い方次第ではどんなVCやユニコーン企業よりも大きく強いリソースを活用しながら事業開発をするという経験を積むことができ、それはカオスで楽しい新規事業開発を経験することができる素晴らしい選択肢になるものだと感じています。
事業開発キャリアはやはり素晴らしいと思いますか?
私自身はもし一度社会人1年目に戻ったとしても同じ、事業開発キャリアを歩みたいと思っているほど、素晴らしいものだと感じています。
私は新規事業は総合格闘技だと思っていまして、得意不得意はあれど様々なスキルを組み合わせながらとにかく事業を伸ばす方法を考え続ける時間はかなり濃密なものです。そんな事業開発では、キャパシティ(対応力)とケイパビリティ(能力)の両方が鍛えられるため、成長の幅が大きいと実感してます。
事業開発はマーケティングや営業、システム開発など幅広い知識を総動員しながら進める総合格闘技だと思っています。そうした経験はキャリアの選択肢に大きな影響があると思っています。そういった観点で長期的な視点で考えても、事業開発の経験は圧倒的に価値があると思います。
もし事業開発に挑戦できる機会があるなら、迷わず選ぶべきキャリアだと考えています。ただし、それだけ厳しい世界であることも事実です。非常に苦しく、精神的にも肉体的にも負荷がかかる仕事なので、実際に経験した人にしか分からない大変さがあるのも確かですが是非チャレンジして頂きたいと思います。
今の時代、「とにかく起業しろ」という風潮がありますが、リスクも多い印象です。この点についてどう思われますか?
確かに起業には事業成長が止まれば会社の倒産リスクが伴う。その点大企業新規事業の場合は本業が存在する限り新規事業が上手くいかずとも、すぐに会社が倒産し仕事を失うことにはならず、リスクヘッジが可能です。
ただ、その裏側には「事業成長のスピードが限定される」という副作用が潜んでいるとも考えています。
スタートアップは裁量が大きく、挑戦の幅も広いですが、その分リスクも大きい。大企業での事業開発は投資についてのバックアップや事業を進める上での既存アセットや母体としての安定性がある一方で、ガバナンス面での対応などに時間を要し事業成長のスピードはどうしてもスタートアップには敵わない部分があり、こうしたスピード感を活かして大企業を打ち負かすスタートアップがいらっしゃるのも事実です。
私はこれらは一長一短だとおもっており、事業のフィールドや担当者によってもどちらがいいのかというのは別れる部分だと、多くのスタートアップの皆様とお話しをする中で感じています。また、大企業で事業開発に挑戦することは会社という組織上誰にでもできるわけではなく、学生・若手時代からの自ら積みたい経験や戦略的なキャリア設計が求められます。起業家または社内事業家どちらを選ぶにせよ、自分の強みや将来の人生ビジョンを踏まえて逆算しながら挑戦することが大切だと考えています。
大企業の新規事業と、将来の起業を見据えた新規事業は違うものになりつつあるように感じます。大企業だからこそ成立する事業もありますよね。
そうですね。正直なところ大企業の中で新規事業を立ち上げる場合、会社が「やりたい」と判断しないと実現できないので、全てが起案者の自由に行くわけではありません。どちらが良いのか、自分自身もよく考えるテーマではあります。
私の場合、「起業したい」という気持ちが強いわけではないタイプで、いわゆる「起業マインド」があるから新規事業領域に来たのではなく、自分の将来ビジョンの実現に必要な「事業開発能力」を身につけたいという気持ちから現在の立ち位置におります。
その中で取り組む新規事業については、社会に求められる領域であれば私自身は納得感を持って取り組めますし、その中で企業のメリットにもなりその会社のアセットを活用できる環境である場合、事業成長の観点からも社内新規事業は非常に合理的な選択肢だと思っています。
遠藤さんのようなアグレッシブな人材は、大企業ではあまり見かけません。大東建託ではどうですか?
会社全体の雰囲気は非常にアグレッシブな会社だと感じています。当社の事業形態は「強い営業力と確かな商品力」を主軸に、土地をお持ちのオーナー様にアパート経営を提案する、いわゆる賃貸領域に関するコンサルタント営業が主軸になっています。
そのため、しっかり成果を出した人には、それに見合う報酬が支払われるという考え方が明確にあるので、アグレッシブでチャレンジ志向を持つ社員が多いです。
その中でこれまでミライノベーター制度は「あなたも社長になれる」「事業開発責任者として新たな挑戦できる」という環境の提供は、社員にとって非常に魅力的に映ってきた部分だと思います。当社には挑戦機会があるからこそ、スキルアップを目指したい人や、将来的に社長を目指す人にとっては、チャレンジしやすい環境になっていると感じます。
延べ1,300名の従業員が参加した大東建託の社内新規事業制度
大東建託は社内新規事業制度が盛んだと伺っています。
はい、当社ではこれまでの5年間で6回の事業開発プログラムを開催しており、延べ1,300名が参加しています。この背景には、「成功したい」「社長になりたい」という強いモチベーションを持つ社員が多いことが背景にあると思います。そういった志向を持つ人にとって、事業開発という領域は非常にフィットしやすい環境になっています。
一般的に、大企業に入社する時点で「安定したキャリアを築きたい」と考える人が多く、長期的にサラリーマンとして働くことを前提にしているケースが少なくありません。そのため、「なぜ今から事業開発を学ぶ必要があるのか」「もしうまくいかなかったら自分のキャリアにどんな影響があるのか」といった懸念を持つ方も多いようです。
大東建託はアグレッシブでチャレンジ思考の強い社員が多いため「挑戦を続けたい」「新しい事業に関わりたい」と考える人が多いので、事業開発への意欲が自然と高まりやすいのだと思います。
実際にどのような成果があったのでしょうか。
これまで多くの応募案の中から約20件ほどの実証実験を行ってきました。
その一例が、ペットの退去時保証サービスです。
当社はペット共生物件も多く、ペットと一緒に暮らしたいというご入居者からも好評を頂いております。ただ、猫や犬を飼っていると、壁や床に傷がついたり、場合によっては損傷が大きくなることもあります。そのため、退去時に高額な修繕費用を請求せざるを得ないケースが多く発生していました。
そこで、あらかじめ入居時に保証金を設定し、一定額を支払ってもらうことで、退去時の修繕費用をカバーする仕組みを導入しました。このサービスを導入することで、入居者は退去時の費用負担を気にする必要がなくなり、オーナー側も修繕費用の未払いリスクを軽減できます。
この仕組みは、当社が持つ管理物件や不動産仲介というアセットを活用しながら事業シナジーを生み出した好例だと考えています。
もう一つ興味深い事例として、グループ会社に事業を譲渡し、継続させたケースがあります。大東建託ではリソースの活用が難しかったものの、提案の領域に強みを持ったグループ会社であれば活用できるリソースがあったため、グループ内で事業を譲渡しました。このような形で、グループ全体で最適な形に調整しながら「事業」を成長させる環境を整える動きを取っています。
―そんな取り組みは初めて耳にしました。
事業起案者の「どうしても続けたい」「なんとか事業を継続させてほしい」という強い想いがポイントになり、その強い思いがあったからこそ、グループの中で最も適した会社へ事業を移すことで、事業シナジーの道筋をつけることができ事業継続が実現しました。
一般的なスタートアップでは、資金調達ができずに事業終了となるケースも少なくありません。しかし、当社ではグループ内の幅広いリソースを活かし事業を成長させることができるような仕組みを構築しています。
社内新規事業を募集する際、社内のアセットを活用するなどのルールはあるのでしょうか?
社内のアセットやリソースを活用することは、絶対条件として設定しています。これは事業開発を進める上で必要不可欠な要素です。
ただ、それが制約になるわけではなく、むしろ現場にとってはイメージしやすく、協業の形を描きやすいというメリットがあります。その結果、提案もしやすくなり、シナジーも生まれやすい状況を作れています。
また、新規事業を立ち上げる際には、既存のバリューチェーンや商流を大きく変えずに、新たなサービスやプロダクトを組み込むことが重要だと考えています。
既存の仕組みにうまく乗せることで、スムーズな立ち上げが可能になりますし、社内外の関係者にとっても受け入れやすい形になります。こうした点を意識することで、より実現性の高い事業開発が進められると考えています。
クローズドイノベーションの取り組みは、採用にも影響を与えていますか?
新卒採用においても影響は大きいと感じています。最近の新卒の優秀な方々は、オープンイノベーションや新規事業制度などの取り組みがあるかどうかを意識して企業を選ぶ方も増えてきていると感じています。具体的には、「社内起業制度があるか」「新規事業を学べる環境があるか」といった点を質問頂くケースが多いですね。
もちろん、どれくらいの割合の方がこの点を重視しているのかを明確に示すのは難しいですが、キャリアの挑戦機会がどれだけあるか、制度が整っているかは、新卒だけでなく中途採用においても関心の高いポイントだと現場にいて感じています。
また、社内でも新規事業制度の影響は出ています。例えば一度退職を考えた社員が、こうした挑戦の機会があることで社内に留まる選択をするケースも出てきています。
このように、社内のキャリア開発制度としての価値は非常に大きく、社内の人材活用だけでなく、他社との議論の中でも「新規事業制度の重要性」は改めて実感しています。
新規事業制度については第7回目を迎える25年度から、更なる新規事業制度のアップデートに向けて、大東建託グループパーパスである「託すをつなぎ、未来をひらく。」を実現するため「HIRAKU」という名称に制度をリニューアルし、更に拡大していきたいと考えています。
produced by Sourcing Brothers | text and edited by Jinya Nakamura | photographs by Yuji Shimazak