【Vol.3】2016年CVC黎明期からオープンイノベーションを起こし続けるTOPPAN
1900年(明治33年)創業し、現在では世界最大規模の総合印刷会社であるTOPPANホールディングス株式会社(以下、TOPPAN HD)は、証券やカード、商業・出版印刷、パッケージ印刷などが有名である。その一方で長年培った印刷テクノロジーをベースに様々な新事業を展開している。本記事では、情報コミュニケーションや生活・産業、エレクトロニクス事業に至るまで、TOPPAN HDが事業開発に取り組み続けている背景に迫った。そこにはTOPPANグループのCVCとして、試行錯誤を重ねながらスタートアップと連携している姿があった——
写真左から
・内田 多さん
2010年 凸版印刷株式会社(現TOPPANホールディングス株式会社)に入社。法務本部にて、BookLiveやマピオン等のデジタルコンテンツ領域を中心に法務業務に従事。広告企画・開発部門を経て、2016年より、経営企画本部 にて、ベンチャー投資およびM&Aを通じた事業開発を担当。2019年よりCVC部門(当時経営企画本部 戦略投資推進室)専任で、オシロ、combo、ナッジ、Liberaware、Anique、Chai、Ascendersなどを担当。早稲田大学大学院 経営管理研究科修了。早稲田大学イノベーション・ファイナンス国際研究所招聘研究員。
・飯田 輝さん
大学を卒業後、2019年に凸版印刷株式会社(現TOPPANホールディングス株式会社)に入社。大学時代には、全世界の投資家とスタートアップのマッチングイベント「Slush」のコアメンバーとして、持ち前のコミュニケーション能力を用いて、チームを束ねた。入社当初からCVC部門(当時経営企画本部 戦略投資推進室)に所属、海外留学などのバックグラウンドを活かし、スタートアップ企業との資本業務提携による事業開発を推進。担当先はNEW STANDARD、ザ・ファージなど。
・高橋 琢朗さん
大学を卒業後、2018年に凸版印刷株式会社(現TOPPANホールディングス株式会社)に入社。CVC部門(当時経営企画本部 戦略投資推進室)に配属となり、10社を超えるベンチャー企業との資本業務提携に従事。資本業務提携先のスタートアップとの事業開発プロジェクトにてサービス開発のオペレーション回りも推進。メトロエンジン、ユニファ、TCM、グラファー、トレタ、Liberaware、Chai、CO-NECTなどを担当。
CVC黎明期にTOPPANがCVCの取組みを開始した背景を振り返る
TOPPAN でCVCの取組みが立ち上がった背景について教えてください。
内田:TOPPAN HDはCVCに取り組む事前準備として、2015年〜16年にCVCの取り組みに関してリサーチを行いました。様々なVCや他社のCVCなどにヒアリングをさせていただいた後、TOPPAN HDのBS出資の建付けでCVC部門を立ち上げました。TOPPANグループとしてデジタル化を進めていく方針を掲げ、また、新事業・新市場の創出を推進していくタイミングで、資本業務提携を前提とするアプローチを始めました。スタートアップは最先端の情報や技術、成長戦略などを持っているので、出資を通じて一定以上のパートナーシップを構築し、スタートアップの成長に貢献しつつ、TOPPAN HDとしての新事業に繋がる洞察や共創機会を得ていこうと考えました。
独自の投資手法について
TOPPAN のCVCの投資方法について教えてください。
飯田:設立から現在もTOPPAN HD本体からスタートアップへ出資(BS出資)しています。TOPPAN HD本体として出資を行うため、TOPPANグループとしても事業リターンを一番受けやすいのではないかと考えた上での投資方法です。事業リターンとしては、投資をしてからスタートアップと共に売り上げを立てていくことや、最新の市場や事業についてコミュニケーション・洞察を得られることなどが挙げられます。粒度の細かい情報を基に洞察を得られることが特徴で、その洞察を活かしてTOPPANグループとしても先進的なサービスを実現できればと考えています。当然、投資先のバリューアップをするべく、事業会社という特徴も生かして販売協力や事業開発などの支援もします。
飯田:一方で、会社本体から投資予算と人材を切り離してCVCを設立し、投資を行う方法ではないため、意思決定が遅れてしまう可能性はあります。デメリットを補うために、LP出資を併用することも考えられます。
発足当初からスムーズに運営できていたのでしょうか。
内田:当社では、出資をした後のTOPPANグループとの連携については、事業部門やグループ会社と一緒になって出資先スタートアップと連携を取ります。CVCの取組みを始めた当初は、取組み自体がグループ内で浸透していなそかったこともあり、連携に興味を持っていただける方は多くはなかったかもしれません。事業部門やグループ会社の仲間からすると、事業会社としてのTOPPANグループとして収益を上げていく責任がある中で対応したくても実際にはその余裕がなく、連携が取りづらい面もあるのだろうと推測しました。それからは、CVC部門としても事業部門と勉強会を開催したり、CVC部門の担当者が作成した投資検討領域の調査レポートを共有・議論したり、期間を区切って事業部門からCVC部門への人事異動を行うなど、出資検討をする時だけでなく、定常的に議論と人材が交わるように積極的にコミュニケーションを取るように心がけています。まだまだ成果を出していかなければならない状況ですが、TOPPANグループとして連携しやすい環境になってきていると考えています。
高橋:私はCVC部門の投資担当に加えて、事業部門を兼任しているので、定期的に事業部門から連携のニーズや課題をヒアリングしています。事業部門の関心領域と考えられるスタートアップのリストを作り、事業部門のマネージャーとMTGを行い、ソーシングする領域を選定しています。
マイノリティ出資からM&Aに発展する場合もあるのでしょうか。
内田:これまでCVCからマイノリティ出資をさせていただいた後に、TOPPANグループにグループインした実績も3社あります。例えばのM&Aのニーズとして、一連のバリューチェーンのなかで、TOPPANグループが担っているプロセスの川上や川下のプロセスをスタートアップが担っている場合に、M&Aを実行することで、より効率的になるあるいは、ワンストップで付加価値を創出できるケースが挙げられます。
出資からのM&Aの考え方では、始めからM&Aを見据えている出資もあれば、徐々に関係値を築いていくなかで、創発的にM&Aという選択がうまれる場合もあります。IPOが第一選択になる場合が多い中で、「IPOできなかったのでM&Aを行う」のではなく、「もともとM&Aも有力な選択肢の1つで、その候補先はTOPPANでもある」というパートナーシップを、スタートアップの皆さんと築いていけると良いなと考えています。
そのほかにイノベーションを起こすための取り組みを教えてください。
飯田:TOPPANグループには、経営人材に成長するための実務の機会も多く、社内外の研修なども用意されています。CVCの取組みでは、出資先スタートアップのバリューアップ等の面で、M&AにおいてはPMIの実行で経営人材が必要です。CVCに取り組むことで、スタートアップへの出資や資本業務提携により、自社単独で取り組むよりも早く、そして多様な事業機会にアクセスできるようになります。その利点を活かせるように、自社内で経営・事業家人材を育成・排出する体制が整っている方が良いと考えます。
他に、TOPPANグループでは従業員が副業・兼業を行うことも可能です。例えば、スタートアップでの副業やスタートアップからの業務委託を受けることもできる制度ですので、そうした副業・兼業を通して、相互の立場や事業に取り組むスピード・リスク嗜好などを理解することはイノベーションを起こしていくうえで良い手段になるかもしれません。
CVCに取り組む企業に一言お願いいたします。
高橋:スタートアップは、資金や人手を含めたリソースが足りないことが多く、協業にリソースを割けないタイミングもあると思います。一方で、大企業のCVCの取組みは、どうしてもスタートアップ頼りになってしまっていることもあるかと思います。CVCであれば、出資を通じて中長期のパートナーシップを組めるという特徴を活かして、タイミングを含めて、スタートアップの視点にも立った上で、大企業側で協業構想・設計ができるとスムーズに連携もできるのかなと考えています。
produced by Sourcing Brothers | text and edited by Jinya Nakamura | photographs by Yuji Shimazaki