前半ではNTTドコモ・ベンチャーズの歴史や投資方針について取り上げた。後半では多くの共創を生み出すことができている理由を深堀していく。
写真左から
・今井康貴さん
NTTドコモ(以下、ドコモ)に新卒入社後、PRプランナーとしてコーポレートコミュニケーションの分野に長らく従事。経営戦略・出資協業・新規事業・先進技術などの対外発信戦略の立案と実行を担う。2016年からモバイル関連の国際展示会MWC Barcelonaのプロジェクトを手掛け、5G/6GのユースケースやOpen RAN事業などの海外発信を主導。2023年7月にNTTドコモ・ベンチャーズに参画。現在スタートアップとの協創・投資およびPRを担当。
・十川良昭さん
2005年にドコモ新卒入社後、ドコモの屋台骨であるモバイルNWインフラ業務に従事し、全国のエリア整備から年間数千億というNW設備投資の元となるトラヒックモデルを策定。その後、スマートフォン黎明期にネットサービスの世界を志し、楽天への出向も経験。一貫してWeb、アプリのサービス企画運営に従事し、様々な形態(サブスク、個別課金、B2C、C2C等)やジャンル(情報配信、エージェントサービス、オークション、ショッピング、ファッション、トラベル等)のサービスを担当し、社内外でECビジネスの講師も務める。現在はこれら経験を生かしてスタートアップとNTTグループでのイノベーション創出にコミット中。
グループ全体でCVC活動ができる理由に迫る
戦略的リターン創出やスムーズな投資実行のために、どのようなCVC組織体制を組んでいるのでしょうか。
今井:NTTドコモ・ベンチャーズには、投資と共創の二つの役割があります。人員構成では投資を主とするメンバーが多いものの、一部のメンバーは共創担当としてNTTグループ各社との共創・アライアンスを中心に活動しています。
共創担当を設けることはスタートアップとの事業部連携がスムーズに推進されていることに繋がっているのでしょうか。
十川:CVC活動において、事業部とスムーズに連携できない理由として「CVCに対する認知の低さ」や「事業部のスタートアップに対する解像度が高くなく、協業先として捉えられていない」といったケースが挙げられます。共創担当は、事業部に対して勉強会を開催したり、積極的に緻密なコミュニケーションをとり続けています。スタートアップとの共創を想定していないと言いながらも、実際には各事業部の中にスタートアップ連携で解決できる課題があることも多いです。関係値を構築しながら、事業部の抱える課題を把握し、現場の声を踏まえて、スタートアップとの連携スキームを提案していくことが大事で、我々のCVCとしての強みは、その提案先がNTTグループ全体に跨ることだと考えています。また、事業部に対してのヒアリングは一方的ではなく、その事業部のビジネスモデルやミッシングピースを理解していることを示しつつ、事業部と同じ目線で取り組んでいくことが重要であると考えています。
投資先のシナジーを創出するために全社的に取り組まれていることを教えてください。
十川:事業部とのコミュニケーションをスムーズに進めるための仕組みとして、スタートアップ連携の窓口をNTTグループのいくつかの会社で設けています。そこで毎週コミュニケーションを取り、現場の課題や、事業部として模索している分野を吸い上げています。
コミュニケーションにおいては、事業部のキーマン、社内をどのように調整するのがベストか、また踏み込む上でのボトルネックを把握するようにしています。
スタートアップとの連携について
NTTドコモ・ベンチャーズは投資をしてから業務提携を始めていくのでしょうか。それとも協業をしてから投資を行うのでしょうか。
十川:実際にはどちらのパターンもありますが、基本スタンスとしては事業シナジーが既にある、もしくは将来的に見込まれるスタートアップにしか投資はしません。投資と同タイミングで共創を実現することもありますし、長期の場合は、投資の数年後に共創が実現する場合もあります。
スタートアップ連携の中で一番良い形を教えてください。
十川:我々が早期に出資をし、関係値や連携実績を築き、当初の仮設が確信に変わったタイミングで事業部側が我々CVCから株式を引き取り、更に追加でシェアを高めていくことが理想的だとは思っています。ファンドの設立以来、累計で200社以上の投資を行っていますが、NTTグループへのEXITに至った数は8件あり、我々はこの数をもっと増やしていきたいと考えています。
事業リターンとはいえ、数値化は非常に難しいように思えますが、どのようにKPI設定をしているのでしょうか。
今井:当社はいくつかの観点でKPIを定めています。協業はすぐに実現する場合もあれば、中長期的な検討の中で実現するもの、スタートアップの事業や市場の成長があって実現するものなど、事業の特性に応じて適したタイミングがあります。出資検討にあたっては、事業部や経営層とも議論をしながら、それぞれの共創プランを描いていきます。その過程では、具体的にどのような利益貢献がNTTグループに発生し得るのかや、Exitに向けた目論見なども含めて、NTTグループ内のさまざまな関係者と話をしていくので大変です。
オープンイノベーションを考えている企業に一言お願いいたします。
十川:オープンイノベーションを起こすには、やはり各事業部との連携が欠かせません。全社的にトップダウンで取り組めれば最高ですが、やはりCVCとしては事業部を巻き込んでいく地道な活動が大事だと思います。スタートアップ側と事業部側、適切に両者にアプローチし続けることができればやがて大きな成果を生み出すことが出来ると思います。
今井:CVC活動を行う際は、目的や期間などを予め設定することが必要だと考えます。とくにスタートアップとの協業を行う際は、どのタイミングで事業開発を行うことが自社とスタートアップにとって良いのか見極める必要があります。ファンドやCVC活動の期限、自社の長期的な目標と照らし合わせて考えることが大切だと思います。
produced by Sourcing Brothers | text and edited by Jinya Nakamura | photographs by Yuji Shimazaki