
2025年1月、外国人支援事業を展開する株式会社グローバルトラストネットワークス(以下、GTN)は、外国人材管理ツール『dekisugi』を運営する株式会社グレッジ(以下、グレッジ)をグループ企業として迎え入れた。3月1日付のプレスリリースによれば、今後はBPaaS(Business Process as a Service)型のソリューション強化を軸に、監理団体や登録支援機関の業務効率化、さらに外国人材の定着支援を包括的にサポートしていく方針だ。
厚生労働省のデータ(2024年10月末時点)では、外国人労働者数は230万人を超え、前年比で約25万人も増加している。少子高齢化による労働力不足が深刻化する日本において、外国人材の受け入れは今後ますます不可欠な状況となる一方、住環境や生活支援の不足、雇用企業や監理団体の業務負担増加といった課題も顕在化している。こうした社会的背景を受け、GTNとグレッジは共同で外国人材が安心して日本で生活・就労できる環境づくりを推進していく。
本記事では、M&Aの狙いや両社の事業概要、経営陣のインタビュー内容を交えながら、外国人材支援の今後や多文化共生社会への展望を探っていく。
写真左から
株式会社グローバルトラストネットワークス 代表取締役社長 後藤 裕幸 氏
熊本県生まれ。中央大学在学中にITベンチャーを起業し、2003年にはアジア市場調査および進出コンサルティング会社を設立。その後、2006年4月にバイアウトし、同年7月に株式会社グローバルトラストネットワークス(GTN)を創業。「外国人が日本に来てよかったをカタチに」を理念に掲げ、外国人向けの住居保証、生活サポート、通信、クレジットカード、福利厚生、人材紹介など幅広いサービスを提供。
株式会社グレッジ 代表取締役 大谷 康仁 氏
愛知県出身。10年間HR領域に携わり、その後2018年にHR企業を設立し代表取締役へ就任。同年12月にHRTech企業のCOOへ就任。HRとTechを掛け合わせたサービス、プロダクトを提供し、デジタル化が進んでいないHR業界の課題解決に取り組む。2023年に株式会社グレッジへCOOとしてジョイン、2025年に代表取締役へ就任。技能実習、特定技能の在留資格を管理する支援団体へのDXを促進するサービス、プロダクトを提供し、アナログな手続きが多い外国人支援団体の業務をテクノロジーを活用して効率化する取り組みを推進。
外国人の家と生活を丸ごと支えるGTN
2000年、大学2年生だった後藤裕幸氏は、韓国や中国の仲間とITビジネスを立ち上げていた。彼らと事業を進める中で「日本は外国人が家を借りるのに苦労する国だ」という事実に気づくことになる。保証人を頼まれ、10数名ほどの保証人役を引き受けてしまい、“滞納されたらどうしよう”とヒヤヒヤした経験から、実態を変えたいという想いが芽生えたという。「大学2年のときに起業したんですが、韓国や中国の友だちが『家が借りにくい』と苦労していて。みんな私に保証人を頼んでくるんですよ。10数名くらいやって、『家賃滞納があったらやばいな』と思った(笑)。幸い誰も未納せずに済んだけど、あれで痛い目にあっていたら、今の会社はなかったかもしれませんね。」と後藤氏は当時を振り返る。
こうして後藤氏は、「日本に来る外国人が不安なく住める環境を作りたい」という熱い想いとともに2006年に株式会社グローバルトラストネットワークス(以下、GTN)を創業。外国人向け家賃保証の仕組みを整え、外国人支援事業を本格化させていった。「外国人が家を借りるときって保証人問題だけでなく、オーナーさん側のリスクや文化習慣の違いも大きな壁になるんです。だったら一括でサポートしよう、と思ったのがGTNのスタートでした。」
DXの力で外国人管理を進化させるグレッジ
大阪で生まれたスタートアップベンチャー、株式会社グレッジ(以下、グレッジ)。代表取締役の大谷康仁氏は、人材派遣・転職支援のHR業界での経験、ITベンチャーでのSaaS開発という多彩なキャリアを経て、2020年3月に本格的な“外国人支援のDX”に乗り出した。「グレッジは日本で働く外国人のサポート、環境構築の強化の為、支援団体の課題解決、業務効率化をはかり、日本で働く、これから日本で働きたいという外国人の方のウェルビーイング向上をミッションと掲げて設立された会社です。監理団体や登録支援機関の事務作業を効率化し、外国人へのフォローや生活サポートにかける時間を増やす為のSaaSプロダクト『dekisugi』に特化しました。」
「dekisugi」が注目を集めるのは、技能実習や特定技能の大量の書類作業を大幅に削減できるからだ。大谷氏が培ってきた“SaaSをゼロから立ち上げるノウハウ”が土台となり、いまや1300団体以上が利用するサービスへと成長している。「外国人向けの制度は書類が膨大で、支援団体や企業が本来すべき面談やフォローに時間を割けない。そこをITで変えるのが『dekisugi』の使命です。私自身、スタートアップベンチャーでSaaSプロダクトのPMFからグロースに携わった経験があるので、その知見が生きていますね。」と大谷氏は力強く語る。

偶然のようで必然――GTNとグレッジが手を組んだ理由
数年前から、GTNはグレッジの「dekisugi」をユーザーとして導入していた。GTN代表の後藤氏は、「いつか一緒に事業をやりたい」と内心思っていたが、ちょうど会社として大きな舵取りをする直前というタイミングの兼ね合いもあって、なかなか話が進まなかったという。「グレッジさんとは前から『一緒になれたらいいな』と思ってたんです。dekisugiは業界で高い評価を受けているし、GTNはユーザーでもあります。ただ、大きな決断をする前だったので、株主から『本当にいいの?』という声もあった。でも結果的に、みんな“今しかない”と判断してくれたんです。」
大谷氏も、GTNが提供する家賃保証や通信サービス、生活支援などの幅広い事業に衝撃を受け、「本当にそこまでやるのか」と興味を引かれたと語る。「最初は詳しく知らなかったのですが、GTNさんは外国人向けに家や通信、金融まで含めて“丸ごとサポート”している。それって現場からするとものすごく助かるはずで、うちの『dekisugi』と相性がいいなと。話すほど『面白そうだな』って思いましたね。」

事業の核心――「テック×アナログ」で外国人を総合支援
M&Aを結んだポイントは、GTNがアナログで積み重ねてきた住環境サポートと、グレッジが得意とするITによる業務効率化を融合すること。これによって、外国人を受け入れる企業や支援団体が“書類に追われる”状態から脱却し、生活支援にも手を回せるようになる。「GTNさんはリアルのサポートが強い、グレッジはテックが強い、両方合わさればシナジーは大きい。実際2か月ほど動かしてみて、『こういうサービスが欲しい』という問い合わせが殺到して嬉しい悲鳴です。4月以降に本格化させようとしていますが、うまくいけば相当広がりそうです。」
大谷氏の発言を受け後藤氏は「GTNは外国人向けの生活インフラを支える事業で実績を積んできましたが、デジタル面でまだまだ課題がある印象があったんです。だからグレッジさんと一緒になることで、テックを強化できるのが何より嬉しいですね。お互い足りない部分を補える関係だと思っています。」と強調した。
M&A成功のカギ――人材確保と“熱い想い”
今回のM&Aには、“タレントバイ”の要素もあると後藤氏は語る。大谷氏やCTOの飯田氏らが持つノウハウは、GTNがこれまでカバーしきれなかったDX領域を一気に押し上げる力になるという。「大谷さんが長年経験してきたHR業界、スタートアップベンチャーでのSaaSプロダクトのグロースと経営、CTO飯田さんの高度なテックノウハウ。これらはうちにとって新たな血となり肉となる存在。社員たちも『大谷さんすごいね』って、この新しい取り組みを高く評価してくれていますよ。」と後藤氏は新たな経営陣の知見が加わることに希望を抱いている。
後藤氏の発言を受け大谷氏もまた、GTNの全国ネットワークと実店舗網が「dekisugi」の導入をアナログ面から支援してくれるのは大きなアドバンテージだと話す。「GTNさんは全国の外国人支援の要所に拠点があって、人を介したサポートが非常に強い。私たちがデジタルのシステムを開発しても、現場に入らないと浸透しません。それを一緒にできるからこそ、“本当のDX”が実現できると思っています。」
今後の方向性――地方創生と外国人受け入れの新展開
両社が特に注目しているのは“地方”。人口減少が深刻なエリアほど、外国人の力が求められているが、行政対応や文化的なサポートが追いつかないケースが多いという。「福岡、熊本、東海と支店をどんどん増やしています。地方の観光地でも外国人が働いたり、インバウンドが来たりと盛り上がってるところがある一方で、書類や生活面が追いつかない。グレッジさんのシステムと、うちのアナログ拠点がセットになれば、地方創生と外国人受け入れを同時に進められると思うんです。」と後藤氏は日本社会のひっ迫する課題に触れる。
一方で大谷氏は「自治体との連携もいろいろ面白いアイデアがあります。災害時の避難所の案内や、地方ならではの生活課題をデジタルで解決する。ローカル企業や監理団体にとっての外国人雇用のハードルを下げていけるよう、いま色々データを整理している最中ですね。」両社は、はやくも課題に対してアクションを起こしている。

外国人材への思い――「能力を見える化し、公平に活躍できる場を」
後藤氏が描くビジョンは、外国人が日本人と同じ条件で評価され、キャリアを伸ばせる社会の構築。それこそが労働力不足に悩む日本が“次の一手”として選ぶべき道だと強調する。「外国人の能力やスキルを正当に評価して、日本人と変わらない待遇で働ける場所を作りたい。そうすれば『日本を選ぶ』外国人が増えて、企業も地方も助かるんですよ。デジタル化した“管理”だけじゃなくて、本人たちのキャリアや生活を応援するところまで踏み込みたいですね。」
続けて、後藤氏がなぜ外国人の課題に全力で取り組むのかを力強く語った。「よく『外国人支援は国がやればいいのでは』という声が届くんですが、行政だけではカバーしきれない部分がたくさんあると思うんです。制度の整備や大枠は行政が担い、細かいところまで面倒を見るのは民間が得意分野でしょう。僕らみたいなインフラ企業が動けば、外国人もスムーズに生活できます。『日本に来てよかった』と感じる人が増えれば、日本の未来にとってプラスになると確信しています。」と“社会課題を解決するスタートアップ”としての未来を語る。
イノベーションの多産に向けて――「第4の開国」を共につくる
日本はこれまで明治維新や戦後復興など、“外からの刺激”で大きく変革してきた。両社は「これからの日本も同じ。外国人を受け入れ、彼らと共創することでイノベーションが起こる」と考えている。後藤氏は「歴史を見るとイノベーションは外からの文化や技術を取り入れて起きる。日本にも課題はあるけど、外国の方が加わってくれることで新しい価値が生まれるんです。これを私は『第4の開国』と呼んでいて、グレッジさんとの連携はその入口だと思っています。」と話し、大谷さんはそれに対して「日本人と同じ土俵で戦えるなら、外国人も日本が魅力的だと思うはずです。『dekisugi』とGTNさんのサービスが融合したら、その環境がぐっと近づくと感じます。少しずつでもこの変化を広げて、新しい日本を作っていきたいですね。」と両社のシナジーから生まれる未来を語る。
GTNとグレッジが描くのは、単なる業務効率化ではない。外国人が日本で安心して暮らし、力を発揮できる社会を本気で実現しようとする、覚悟とビジョンの結晶だ。アナログとテックが交差するその先に、共生の未来は確かに広がっている。今、二社の挑戦が、日本の変革を静かに、しかし確実に加速させている――。