
「サンリオがスタートアップと組む」──この言葉に、意外性と期待感を抱く人も少なくないだろう。2025年3月14日、株式会社サンリオ(以下サンリオ)は「サンリオ スタートアップピッチ 〜One World, Connecting Smiles. 一人でも多くの人を笑顔に〜」と題したピッチイベントを開催。イノベーティブなプロダクトやサービスを持つスタートアップ企業が、サンリオの掲げる「サステナビリティ」や「Well-Being」、「クリエイティブ」といったテーマに挑み、その可能性を競い合った。
本イベントの最大の特徴は、“サンリオ・マテリアリティ”という独自の視点だ。キャラクターコンテンツを超え、より多くの人々に寄り添うブランドを目指すサンリオは、従来の枠組みにとらわれず、社会課題の解決に資するプロダクトとの共創を視野に入れている。優勝企業には賞金100万円とともに、サンリオとの将来的な協働の道が開かれる。
当日は、CIC Tokyo Venture Caféにてオフライン・オンラインのハイブリッド形式で開催。審査員として、代表取締役社長の辻朋邦氏をはじめとする経営陣が登壇し、単なるビジネス評価を超えた「社会に対する創出価値」に注目した審査が行われた。サンリオが描く「笑顔による課題解決」は、どのようなスタートアップとの出会いによって加速していくのか。期待と熱気に包まれたピッチイベントの全容をレポートする。

「みんななかよく」の理念を社会へ。サンリオが挑む“笑顔の共創”

「私たちだけでは、すべての課題に向き合うことはできない」。サンリオが初めて主催するスタートアップ向けピッチイベント「サンリオ スタートアップピッチ 〜One World, Connecting Smiles.〜」は、そんな想いから始まった。
「みんななかよく」という企業理念のもと、エンターテイメントを通じて“笑顔”を届け続けてきたサンリオ。近年は、2035年を見据えたグローバルな10の重点課題=「サンリオ・マテリアリティ」を策定し、企業活動と社会的価値の接続に注力している。

その中でも、今回は特に「Well-Beingの充足」と「クリエイティブの民主化」という2つのテーマに焦点を当てた。これらは、自己肯定感やメンタルケア、共創による創造性の発揮といった“笑顔”に直結する価値観であり、サンリオのビジョン「One World, Connecting Smiles.一人でも多くの人を笑顔にし、世界中に幸せの輪を広げていく」の実現に欠かせないテーマだ。
「私たちが手の届かない領域に、スタートアップならではの新しい視点や技術がある。そうした力をお借りしながら共に未来をつくりたい」。主催者の想いが詰まったこのイベントには、130を超えるスタートアップから応募が集まり、多彩なプロダクトとビジョンが一堂に会した。
キーワードは「共感」と「シナジー」──企業理念に通じ合うかどうか
応募企業の中から選ばれたのは、サンリオの価値観に真摯に向き合い、“共創の可能性”を秘めたスタートアップたちだった。審査を務めたのは、代表の辻朋邦氏をはじめとする経営陣。そしてその舞台裏を支え、イベント全体の設計を担ったのが、グローバルサステナビリティ推進室のシニアマネージャー・酒井健太郎氏だ。

酒井氏によれば、審査基準は大きく5つ。「サンリオの企業理念への共感」「マテリアリティとの親和性」「社会課題解決と収益性の両立」「既存事業の進化や補完につながる独自性」、そして「グローバル視点」が問われた。
「130社を超えるご応募をいただき、すべての提案に熱意と想いが詰まっていました。書類選考の時点で社内では激論の連続でしたね」と酒井氏は振り返る。最終的には、事業そのものの収益性や成長性以上に、サンリオの理念「みんななかよく」との共鳴や、共に“笑顔をつくる未来”を描けるかどうかが決め手となったという。
「スタートアップピッチという枠組みではありますが、王道のコンテストとは少し違った、“サンリオらしい選び方”ができたと思っています。光の当て方が違えば、違う輝きが見える——まさにそんな瞬間がたくさんありました」。

“社会に届けたい笑顔”をともに育てていく存在として
今回、Well-Being部門の最優秀賞に選ばれたのは、HUSTLERS Corp.が開発する「Turning」。スマートフォン使用の過剰による集中力の低下やメンタル不調といった“デジタル時代の健康課題”に対し、使用管理を通じたウェルビーイングの向上を提案するサービスだ。

「単に制限するだけでなく、楽しくポジティブな使い方に導く発想に共感しました。デジタルウェルネスという概念は、我々のお客様層にも深く関わるテーマだと感じています」(酒井氏)

一方、クリエイティブ部門での受賞は、誰でも簡単にゲームが作れるUGCプラットフォームを展開する株式会社Bufff。同社はピッチ内で、サンリオが運営する創作プラットフォーム「Charaforio」を引き合いに出し、「ゲーム版Charaforio」として提案を行った。

「企業と個人、公式とファンが共創する世界観が一致していました。創作を通じた自己表現や、クリエイティビティの民主化は、今後のIP活用のあり方にもつながる視点だと思っています」(酒井氏)
スタートアップと共に描く、「幸せの輪」のその先へ

「社会課題の解決と、笑顔の創出は、私たちにとって同義です」。そう語る酒井氏の言葉が象徴するように、今回のサンリオスタートアップピッチは、単なる協業や投資の枠を超えた「理念の交差点」として機能していた。
今後、受賞企業との実証や協働が進む中で、どのようなプロダクトが、どのような形で社会に届けられるのか——その答えはまだわからない。しかし、サンリオが掲げる「One World, Connecting Smiles.」というビジョンのもとで始まったこの一歩は、スタートアップと共に世界に広がる“幸せの輪”の確かな起点となったことは間違いない。
※本ページにおける所属・役職などは、すべて取材当時のものです。
produced by Sourcing Brothers | text and edited by Jinya Nakamura | photographs by Yuji Shimazak