次世代の太陽光技術を社会へ実装したい!「技術商社」と「京都大学発のスタートアップ」を結び付けた熱意と理解
曲がる太陽電池「ペロブスカイト型太陽電池」を開発するエネコートテクノロジーズは2024年7月18日、第三者割当増資で55億円を調達したと発表した。これまでに得た資金は公的助成も合わせると100億円を超えた。本格的な生産体制の確立を急ぐとともに、車載用などへの展開を見据えて年内にも小型の太陽電池を発売する予定だ。
ペロブスカイト型太陽電池は薄く曲げられるのが特徴で、建物の壁などに設置しやすい。既存のシリコン製に続く次世代の太陽電池の本命と期待されている。
今回の資金調達の裏側には、エレクトロニクス商社とケミカルメーカーの複合企業として知られる伯東の存在がある。両社に資金調達に至った背景を伺った。
技術商社と京都大学発のスタートアップが抱えていたそれぞれの課題
事業内容について教えてください。
伯東株式会社 執行役員 島津 昌弘氏(以下:島津):当社は1953年の創業以来、最新情報や最先端技術をいち早くお客様にお届けしてきた技術商社です。また、生産の効率化においては工業薬品を生み出すメーカーとして皆様に愛され、ご支援をいただきながら順調に事業を展開してきました。
具体的には、エレクトロニクス関係のビジネスなどを展開しており、売上の大きな分野で言うと電子デバイス事業が挙げられます。電子機器事業においては、半導体製造、プリント基板製造など自社ブランドも手がけています。化学事業では、生産性向上と環境に配慮したスペシャリティケミカル及び微生物産生多糖類技術を用いた化粧品関連製品の開発製造を行っています。
その他にも、太陽電池パネルなどエネルギー関係の事業にも参入、コネクタから各種電気部品、電気材料、LCDパネルなどエレクトロ二ックコンポーネント領域事業に加えRFID関連、オンライン会議システムのソリューション製品も展開している企業です。
株式会社エネコートテクノロジーズ 代表取締役社長 執行役員CEO 加藤 尚哉(以下:加藤):エネコートテクノロジーズは京都大学発のスタートアップ企業であり、ペロブスカイト太陽電池の開発や製造、販売がメイン事業です。 ペロブスカイト太陽電池は変換効率が高く、非常に軽いのが特徴です。市場の成長率も高く、年率で38%ぐらいの成長が見込まれており、非常に注目いただいております。
今回の提携にあたって、それぞれどのような課題を抱えていたのでしょうか?
島津:当社は太陽光発電に付随して、再生可能エネルギー関連のビジネスを行ってきたのですが、その領域のなかで更なる成長が課題でした。我々は幅広い分野において、新しい技術をいろいろと探求しています。
その過程で、我々は社会課題になっているエネルギー問題に目を向け、成長の鍵となる先端技術への投資先を探していました。そこで、エネコートテクノロジーズ様が持つペロブスカイト太陽電池に着目し、提携を決断したという経緯です。
加藤:エネコートテクノロジーズにおいての課題は、資金調達にありました。当社はペロブスカイト太陽電池の開発を進めるにあたって、2年おきぐらいの間隔で資金調達を行っています。
当社の場合、基本的に事業がどの方向へ進んでいたとしても資金調達は必ず行います。うまくいっている場合は成長資金を調達し、苦戦している場合は会社を存続させるための調達を行うからです。おかげさまで、ペロブスカイト太陽電池は実用化目前まで開発が進んでいます。ただ、製品を量産してユーザーの皆様にお届けするには、さらなる多額の設備投資が必要でした。
現地への訪問を経て両社の意向をすり合わせる
最初はお互いに、どのような印象を持たれたのでしょうか?
島津:エネコートテクノロジーズ様は、非常に注目している企業であり、市場においても一定の優位性を確保されているように感じました。エネコートテクノロジーズ様は、ソーシングブラザーズ様経由でご紹介いただきましたので、我々の方でもいろいろと調査を行いました。
エネコートテクノロジーズ様が開発されているペロブスカイト太陽電池は、太陽光発電の次世代の技術であり、市場でも非常に注目を集めている印象です。ペロブスカイト太陽電池を開発する企業が他にもあるなかで、低照度での発電効率という点においては、エネコートテクノロジーズ様にアドバンテージがあるように感じています。
また、トヨタ自動車株式会社様やKDDI株式会社様なども出資しており、実証実験の発表をされたこともあって非常に注目を集めている印象でした。
加藤:伯東様に対しては、太陽光発電をお持ちでユニークな商社様だなと感じていました。これまでも商社様からのコンタクトはあったのですが、結果的に資本関係を結んだのは伯東様が初めてです。お話を聞いた際に、電子デバイス関連の取り扱いがあるとのことで、初期の頃から良いお取り組みになるのではと感じていました。
本関係を結ぶにあたって、伯東様がエネコートテクノロジーズ様のもとへ訪問される機会があったと伺いましたが、そこではどのようなお話をされたのでしょうか?
島津:実際にペロブスカイト太陽電池を拝見したうえで、どのようなアプリケーションに応用が効くのかなどディスカッションを行いました。
最初にWeb会議を行った際は、まずエネコートテクノロジーズ様のご意向をお伺いしたいと考えていました。具体的には、出資を希望されているのか、それとも業務提携を望まれているのかという点です。我々は業務提携だけでもどうかというアプローチをしたのですが、エネコートテクノロジーズ様は資金調達に重きを置かれているとのことでした。
当社としては投資する立場になりますので、社内でいろいろ稟議を通すために、一度エネコートテクノロジーズ様のもとへご訪問させていただいたという流れです。どのような環境や設備でやられているのかという点を、我々の目で拝見したいという意図がありました。
そのうえでご訪問した際に申し上げたのは、当社は太陽光発電事業も手がけているという点です。ただ投資をするだけでなく、当社のビジネスの延長線上とエネコートテクノロジーズ様の事業における親和性が、非常に高い点をアピールさせていただきました。
加藤:お越しいただけるというのは、当社に興味をお持ちであるという前提でのお話かと思いますので、非常にありがたいことだと感じました。一方で、我々としては出資いただくにあたり、製品開発における時間軸の違いが懸念としてありました。
仮に出資いただいても、伯東様のご意向によっては活用できるまでに長い時間がかかる見込みであったからです。そのため、ご興味の範囲がどの程度であるかを、事前に確認しておく必要がありました。 出資いただけるとありがたいのは事実ですが、その分期待に見合ったお返しができなければなりません。そのため、出資いただいてから製品活用できるまでの時間軸が合うかというところを、我々の方ではかなり掘り下げてお伺いしました。
強固な関係構築へとつながった熱意と理解
業務提携ではなく、資本関係を結んだ理由について教えていただけますでしょうか?
島津:我々としてはエネコートテクノロジーズ様と、長期的かつ戦略的に協力が可能となる関係を築いていきたいと考えたためです。
過去にシリコン型の太陽電池に関しては、中国が最終的に大きく市場を伸ばしていった経緯があります。今回のようなフィルム型のペロブスカイト太陽電池については、設置手法やビジネスモデルがキーポイントになるのではと考えていました。
今後の展開を踏まえて、我々としても本格的に参画することを考えると、エネコートテクノロジーズ様と強固な関係構築が必要だと感じました。ですので、長期にわたって戦略的な協力を可能とするために、単なる業務提携だけではなくて資本関係を結ばせていただいた次第です。
加藤:伯東様のご意向をお伺いして、我々としてもお応えできる部分があると感じたため、資本関係を結ばせていただきました。基本的に当社は、これまでに業務提携は行っていませんでした。実際に製品ができあがった際、いろいろと調整が難しい部分もあるためです。
伯東様からお話をいただいた際に、販売に関してはまだ製品自体ができていないため、資本関係を結んで良いのかという懸念がありました。ですが、伯東様のご意向としては投資をしたらいつまでに何かをするというものではなく、できた暁にはお取り扱いになられたいとのお話でした。我々も製品が完成したら販売に力を入れたいと考えていたため、伯東様のご意向に沿わせていただいたという経緯です。
今回の合意に至るまで、苦労した点などはありましたでしょうか?
島津:我々の方では、あまり苦労した印象はないように感じています。エネコートテクノロジーズ様の方で必要な情報をご提供いただきましたし、社内の申請稟議などもスムーズに進行できた印象です。
加藤:我々としても、伯東様の意思決定が非常に早く驚きましたし、とくに苦労した印象はありませんでした。
では逆に、スムーズに合意できた理由はどのあたりなるとお考えでしょうか?
島津:エネコートテクノロジーズ様に、我々の熱意を感じていただけたからではないかと考えています。我々としては製品を取り扱いたいという考えよりも、エネコートテクノロジーズ様のペロブスカイト太陽電池を、社会に実装していきたいという想いが強くありました。稟議を通す際に、ペロブスカイト太陽電池は次世代の太陽光技術であると周知されていたため、社内でも理解が早かった部分はありました。
もし、世間的に認知されていないような海外のスタートアップ企業の技術だった場合、また話は違ったのかもしれません。トヨタ自動車株式会社様との取り組みが大々的に報じられるなど、ある程度ペロブスカイト太陽電池に対する認知があったことで、スムーズに話が進められた印象です。
加藤:伯東様においては、当社の状況についてご理解いただけたことが大きいように感じています。
当社と商社様の資本関係においては、これまでに他の企業様との間で、途中まで話が進んだこともありました。しかし、最終的には投資する際に「物ができていないと難しい」と回答をいただくことも多くありました。
一方で、伯東様においては現状をご理解いただけた印象です。また、当社の可能性に賭けていただいたうえでの支援かと思われますので、非常にリスクを取ってくださったように感じております。
ペロブスカイト太陽電池を幅広く社会へ実装していきたい
投資先となる、スタートアップを見つけるポイントについて教えてください。
島津:
当社の場合は、以下の3つがポイントです。
・革新的な技術であるか
・事業との親和性があるか
・Win-Win-Winの関係になれるか
当社は投資先となる会社を見つけるにあたって、新しい技術を持つスタートアップ企業へ貪欲にアプローチしています。これまでよりも、さらにアクセラレートするような技術やサービスを探求し続けているからです。
また、当社の事業領域と親和性があるのかを重要視しています。まったく取り入れたことがない事業を新たに行う場合は、社内の体制から大きく変えなければなりません。なかなかそこまでは難しいので、我々が手がけている主力事業をさらに成長・拡大できるような、親和性があるのかを考慮しています。 あとは、我々と提携先だけでなく、お客様も含めて3つのWinを達成できるかも大事にしています。
この3つのポイントを、定められるようになった理由などあれば教えてください。
島津:革新的な技術と事業との関連性においては、これまで当社が取り組んできた価値観につながる部分があるからです。当社としては「技術の伯東」というところを、これからも前面に出していきたいと考えています。そのために、常に新しい技術やサービスを探求し続けてきました。 また、当社はお客様にサービスを提供することによって喜んでいただきつつ、支援を受けてきました。そのような歴史がありますので、我々や取引先だけでなくお客様も合わせて、Win-Win-Winの関係をつくるという社風が定着しているように感じています。
最後に、今後の展望を教えてください。
島津:エネコートテクノロジーズ様のペロブスカイト太陽電池を、とにかくどのようなかたちでも市場に出したうえで、幅広く社会へ実装していきたいという思いがあります。そうすることで、我々としてはエネルギー領域の未来を切り開いていくことに貢献できるはずです。また、エネコートテクノロジーズ様の日本発信の先端技術を、グローバル展開していきたいという野望もあります。
当社は外部資源の活用という点で、オープンイノベーションをうたっています。一方で、我々だけではやはり限界があるのも事実です。今回はソーシングブラザーズ様の支援を受けて、エネコートテクノロジーズ様をご紹介いただきました。これからもこのような活動を、ソーシングブラザーズ様と取り組んでいければと考えています。
加藤:とにかく、ペロブスカイト太陽電池の生産を急ぎたいと考えています。今回の資本関係によって資金調達はほぼ完了し、おかげさまで製品を量産していく準備が整いました。
ペロブスカイト太陽電池の開発や製品化にあたって、正直なところ苦労しているのは事実です。しかし、当社はペロブスカイト太陽電池の生産や実用化において、必ずできると信じて取り組んでいます。
我々は技術系のスタートアップ企業ですので、基本的に営業部がなければ、物を売ったこともありません。今後ペロブスカイト太陽電池の製品化が進んだ際は、今度は販売という点で苦労が待ち受けているはずです。その際は、プロフェッショナルである伯東様からアドバイスをいただきながら、困難を切り抜けていきたいです。
我々にとって伯東様は、製品開発が進んだ後のフェーズにおけるパートナーだと感じています。製品ができれば、またいろいろな課題が出てくると思いますので、一緒に切り抜けていけるような関係性でいられればと考えています。