エネルギーの最適化で、脱炭素を実現する。レジル株式会社が求めるのは「ともに困難に抗える仲間」
マンション一括受電サービスを軸に事業を展開してきたレジル(旧中央電力)。2024年で創業30年を迎える今、第2の創業フェーズとして新たなビジネスに乗り出した。これまでのノウハウを生かし、日本の脱炭素化実現に挑む同社。「『脱炭素を、難問にしない』社会を築くため、分散型エネルギーのエコシステムを構築していく」。そう話すのは、2021年に代表取締役社長に就任した丹治保積(以下、丹治)だ。同社が目指すビジョンについて、明らかにする。
まずは御社の事業及び現在注力されている領域について教えてください
弊社は電力市場の自由化に先がけて、国内ではじめて「マンションの一括受電サービス」を事業化した会社です。簡単に説明すると、これはマンション全世帯で電気を一括契約することで使用料金を抑えるサービスで、関東・関西を中心として約2,200棟 17.8万世帯に電力を供給してきました。
そして現在では、分散型エネルギー事業、グリーンエネルギー事業、エネルギーDX事業の三つの事業に加え、脱炭素ソリューション事業を展開しています。
一つ目の分散型エネルギー事業では、マンション向けに低価格な電気の供給や防災機能の強化を図ることで、持続可能な住環境の提供を目指しています。具体的には、受変電設備の更新に加えて蓄電池や太陽光発電、電気自動車(EV)の充電設備の導入を行い、AIによる制御も活用し、エネルギー効率の改善と環境負荷の削減を進めています。
二つ目のグリーンエネルギー事業では、現在、約7,500件の契約件数の一部に対して、再生可能エネルギーを調達・提供しています。ゆくゆくは全ての契約先への再エネ供給を目指し、企業活動の環境負荷低減を支援しています。この事業は、企業が環境に配慮した運営を行う上で重要な役割を担っています。
三つ目のエネルギーDX事業では、私たちが開発した先進的なシステムやオペレーションのノウハウを他のエネルギー会社に提供し、業界全体のデジタル化を促進しています。この取り組みにより、エネルギー業界の効率化と、エネルギー利用の最適化が図られています。
そして、脱炭素ソリューション事業は、自治体や企業の課題に合わせてそれらの三つの事業が提供しているサービスを組み合わせ、脱炭素に必要な機能をワンストップで提供しています。
レジルの強みについて教えていただけますか
私たちの強みは、単に電気を供給するだけではなく、発電から、送電、電力消費の制御、そして顧客の管理や電気保安、システムや業務プロセスの提供までを包括的に行う事業構造にあります。
多くのエネルギー関連企業が一つの事業に特化している中、レジルでは電力ビジネスに必要なものを一貫して手がけることができる、電力業界の裏方を目指しています。
これにより、お客様に対してより柔軟で広範囲なソリューションを提案することが可能です。私たちの取り組む領域の広さや提供できるツールの多さは、他社との明確な差別化ポイントだと思っております。
あらゆる困難に抗い「無意識の脱炭素化」を実現する
2023年に「中央電力」から「レジル」へと社名を変更していますが、どのような経緯があったのでしょうか
「中央電力」という社名と事業内容とのあいだにズレが生じてきたことが最大の理由です。現在の当社の実態は、仕組みを提供する企業です。社名に「電力」という言葉が入っていると、私たちの発想もどうしてもそこに縛られてしまいます。電力の販売から社会課題の解決に向けてより自由な発想で事業を展開していくために社名の変更を決断しました。
「レジル」という新たな社名は、弊社の掲げる「結束点として、社会課題に抗い続ける」というパーパスに由来しています。社会課題に抗い(Resistance)、世界を回復する(Resilience)企業でありたい。そんな想いを込めました。
パーパスに紐付いて「脱炭素を、難問にしない」というミッションも掲げていますね。
そもそも、なぜこんなにも大量のCO2が排出されているのでしょうか。それは言うまでもなく、私たち人間が豊かさを追求してきた結果です。もっと便利に、もっと快適に暮らしたい。人々のそんな「無意識」の願いが、気候変動を加速してきたのです。
それなら利便性や快適さを損なわず、むしろ豊かさを追求することが、CO2の排出削減につながるとしたらどうでしょうか。きっと気づかぬうちに問題は解決していくはずだと考えています。私たちが目指すのは便利で、安心で、楽しいサービス提供し、そのついでに脱炭素が実現されるような「無意識の脱炭素化」です。4つの事業を通じて、それを実現したいと考えています。その決意を「脱炭素を、難問にしない」というミッションで表現しました。
いつだって逆境を選んできたからこそ“今”がある
丹治さまのご経歴についても教えてください。これまでさまざまなビジネスを経験してきたと伺っています。
新卒で入社したのは日本ヒューレット・パッカードです。ヒューレット・パッカードといえば、シリコンバレーのガレージベンチャーの始祖であり、学生の頃からインターネットに夢中だった私にとっては憧れの存在でした。ところが、以前から抱いていた起業への思いが募り、一年ほどで同社を退社。インターネットを活用した地域振興事業を立ち上げます。ただ、これは資金繰りがうまくいかず、結局2年ほどで事業から撤退することに。はじめて経験した大きな挫折でした。
その後、当時まだ社員100名程度だった楽天に入社されたとか。
そうですね。楽天ではECコンサルタントにはじまり、事業部長や子会社の取締役も経験させていただきました。それなりの成果も挙げられたのですが、会社自体が急成長しているタイミングだったので「自分の実力以上の成果を出せてしまっている」という感覚があったことも事実です。
そこでより深くビジネスを学ぶべく、尊敬する経営者である三枝匡氏が率いるミスミへと転職します。三枝さんは、私に「経営戦略の本質」を文字通りたたき込んでくれた人です。社長として、子会社シグニの黒字化を任され、V字回復を達成できたときは、本当に嬉しかったですね。
けれど、いつからか私が何もせずとも会社が回るようになってしまった。経営者としては歓迎すべきことなのですが、少し物足りなくもありました。恵まれた環境よりも、逆境に置かれる方が好きなんです。より困難な環境で自分自身を磨いていくためにシグニを離れ、その後はいくつかの会社で役員を経験しました。
そこからなぜレジル(中央電力)にジョインすることになったのですか
ミスミ時代の上司で、当時の副社長だった有賀貞一氏から誘われたことがきっかけです。「おれの最後の仕事になるかもしれないから、力を貸してくれ」と。そんな風に誘われたら、シグニの社長を経験浅い私に任せてくれた恩もあるので断れない(笑)。話を聞いてみると、事業内容にもすぐに興味が湧きました。その一方で、一括受電サービスが事業の中心で、社内に閉塞感もあり、素直で実直な社員とせっかくの技術やノウハウを生かしきれていないとも感じました。そこで2020年に入社してからはビジネスモデルの転換と社内の改革に取り組み、2021年の3月に社長に就任し、現在に至っています。
上場による新たな機会の創出
先日の上場おめでとうございます。上場を決めた背景についてお聞かせください。
ありがとうございます。
上場を決めた理由は大きく三つあります。まず一番の理由は、人材の確保です。私たちの事業では、エネルギーの効率的な制御とデジタル技術の融合が不可欠であり、エネルギーとデジタルの両方を理解する専門的な人材が必要です。また、お客様の課題に応じて、既存のサービスを組み合わせたり、新たに創り出したりするコンサルティング能力も必要とされはじめています。上場企業としての信用とブランド力を持つことで、より優秀な人材を引き寄せることができると考えたことが大きいですね。
二つ目の理由は、資金調達の必要性です。私たちの提供するマンション向けの防災サービスの規模が拡大すると、蓄電池やEV充電設備など、大規模な投資が必要です。上場することで資本市場から適切に資金を調達する体制を整えることができ、事業の拡大をよりスムーズに進めることが可能になると考えました。
最後に三つ目の理由は、上場することで得られる信用という側面も非常に大きいと感じたからです。大手企業や地方自治体とのアライアンスを築く上で、上場企業であるという信頼は大きな強みとなります。この信用を背景に、新たなビジネスチャンスを掴み、事業の更なる拡大を目指しています。
これらの理由から、私たちは上場という選択をいたしました。
もちろん、弊社社員が上場企業で働いてる自信をもってさらに頑張ってくれることも期待しています。
上場に対する考えや思いについて詳しくお聞かせください。
私たちにとって上場はあくまで通過点であり、リスタートののろしでもあると考えています。だからこそ、あえて「第二の創業」という言葉で社内外に発信しています。
証券会社からは、スタンダード市場やプライム市場での上場を推奨され、投資家からは「既に売上も収益もあるのに、なぜグロース市場?」と質問されることもありますが、これからがスタートだという想いを込めて、あえてグロース市場を選択しました。
なぜなら、私たちは上場を企業成長の一環として見ており、それがゴールではないと強く意識しているからです。確かに、上場によって一定の安定と信頼を獲得することはできますが、それをもって満足することなく、この上場を再出発と捉え、企業としてさらに大きく成長していくことが私たちの目標です。
上場を経て、今後の展望についてどのような計画がありますか
上場により得た資本を活用して、これまで躊躇していたいくつかの大規模なプロジェクトに積極的に取り組む予定です。例えば、マンションの新築分野への進出計画。この分野はプロジェクト開始から完成まで約2年という時間を要しますが、これまでは資金の制約で手が出せなかった分野でもあります。上場によって得た資金を使い、この新しい市場に挑戦していきたいと考えています。 さらに、企業の成長戦略としてM&Aやアライアンスの機会を積極的に進めていくことも考えています。
上場後の会社全体の雰囲気や方向性について、どのような変化がありましたか
実際、上場しても会社の雰囲気や方向性に大きな変化はありませんでした。もちろん、上場によって資金調達の機会が広がり、新たなプロジェクトや採用の面での可能性は広がりましたが、それによって会社の基本的な取り組みや事業の核が変わるわけではないですし、あくまでも上場は通過点に過ぎないということは、社員も理解しているようでした。
上場パーティは確かに盛り上がりましたが、社内で浮ついた感じもなく、3日もすると全員が次のステップに向けて集中して取り組んでおり、非常に頼もしく思います。
破壊的イノベーションへのチャンス
どんな方に入社していただきたいですか
実は先日「キャリアオーナーシップ経営AWARD 2024」で、企業文化の変革部門において最優秀賞を受賞したんです。私たちの会社は事業成長だけでなく、働き方の革新にも力を入れており、今回の受賞は過去2年半で進めてきた改革のスピードが評価された結果でもあります。
そういう意味では、新たに入社する方にとって非常に良いタイミングだと思っているんです。会社の成長を実感できるだけでなく、その成長を支える制度や変革を直接見ていくことができます。
上場後、これから会社がどう変わっていくかといったタイミングで意見を言ったり、自分の事業を立ち上げたりするなど、積極的に挑戦できる環境が整っております。 なので、チャレンジ精神があふれる方に来ていただけると嬉しいですね。
これから入社する方にとっての魅力について教えてください。
今の私たちの状況はまさに、会社が成長し事業の収益性が高まる中で、既存の枠組みを壊し、新しいチャレンジを追求する段階にあります。この過程に参加することは、後からでは決して経験できない貴重なものです。
特に、既に成功したモデルや製品をさらに改革し、革新的なアプローチを取り入れる「破壊的イノベーション」の過程を体験できるのは、この時期ならではの魅力です。新しいアイデアを生み出すのはスタートアップ企業で経験できると思いますが、せっかく生み出したものを壊して次のステップへ進む過程もまた、非常に面白い経験になると思います。